2021/5/18
日本には約385万もの企業があります。
その中で一人会社と呼ばれる会社はどのような特徴を持っているのでしょうか。
「会社」にすることで得られるメリットや、社会保険はどうしたらよいのかという点をチェックしていきましょう。
2006年に会社法という法律が新たに成立し、それまで3人以上の取締役が必要だった株式会社の設立が、1人でもできるようになりました。
その結果、1人で会社を設立する人も増えてきました。
このように1人で会社を設立し、企業活動する会社のことを「一人会社」と呼びます。
「一人会社と個人事業主とは何が違うの?」と思うかもしれません。
ですが、個人事業主と一人会社とでは大きな違いがあります。
個人事業主はあくまでも「個人」で仕事を請け負うのに対し、一人会社は「法人」として仕事を請け負います。
仕事をした報酬となる収益も、個人事業主は全て個人の収入となりますが、一人会社の場合は会社が収益を得て、社長は会社から報酬を受け取るのです。
そのため、個人事業主は個人名義の口座に報酬を振り込んでもらえますが、一人会社の場合には会社名義の口座を作り、そこに報酬を振り込んでもらわなければなりません。
法人である会社を設立するのは、費用と手間がかかるデメリットがあります。
しかし、会社を設立にはデメリットを上回るメリットがあります。
主なメリットについて、見ていきましょう。
個人事業主も青色申告事業者であればさまざまな節税対策ができます。
代表的なのは3年間の損失繰越があります。
また事業を営む上での経費の計上など、細かな節税対策が考えられます。
ですが一人会社の場合には、損失繰越は最大9年まで可能です。
規定をしっかりと作ることで、出張旅費や社宅などの節税対策が可能となってきます。
年間売上800万円を超えてくると、この節税効果は高くなっていきます。
企業規模が大きくなるにつれ節税効果が高まるのも特徴的です。
個人事業主の多くは、仕事用の口座と個人の私的口座を分けることはありません。
一方で一人会社の場合は、明確に区別する必要があります。
その結果、事業で使用する資金が明確になるため、金融機関側としても事業資金として融資を実行しやすくなります。
個人事業主は個人で全責任を負い業務を遂行します。
結果として、万が一事業で損失を出した場合には、その全責任を負わなければなりません。
ですが一人会社の場合には、業務を遂行するため発生した損失も、会社の責任範囲だけ背負うことになります。
会社の場合は設立時に「資本金」を積みますが、この資本金までが責任範囲です。
雇用される側としては、個人事業主に雇用されるよりも法人に雇用される方が安心を得られるでしょう。
個人事業主と法人格を持つ会社が同じ条件で求人をしていたら、求職者は会社へ応募する率が高まるはずです。
事業が拡大し従業員を募集できるようになった将来、法人になっていた方が人材を集めやすくなると考えることができます。
パートナーを求めている企業から見れば、事業とプライベートの境界があいまいな個人事業主に比べ、組織としてしっかりとした規律がある法人の方が、信頼性は高く感じられます。
信用度が高まることで「融資が受けやすくなる」「求人で応募者の目に留まりやすくなる」といったプラスの循環が起こります。
一人会社を設立すると、社会保険も変わってきます。
会社組織になると健康保険法や厚生年金法が適用され、社会保険への加入義務を負うためです。
社長の役員報酬がない(もしくは報酬額が非常に低い)場合は、国民健康保険や国民年金に加入し続けられます。
しかし、それ以外の場合には国民健康保険や国民年金から脱退し、別の組織に加入しなければなりません。
その結果、会社と個人の双方が支払う社会保険料の合計が高くなります。
健康保険は、国民健康保険から全国健康保険協会(通称協会けんぽ)に加入するのが一般的です。
協会けんぽに加入すると、個人負担額は減ったように見えます。
しかし会社も保険料を負担するため、結果として国民健康保険に納める保険税よりも高くなります。
国民健康保険は市区町村により保険料に違いがありますが、年収500万円(月収約42万円)の方の場合だとおよそ30,000円です。
協会けんぽの場合は会社と個人を合わせた全額で約41,000円です。
年金も、国民年金を脱退し厚生年金に加入します。
国民年金の保険料は2021年度の場合約16,000円ですが、厚生年金の場合は月収により変わります。
先ほどの月収約42万円の方の場合なら、会社と個人を合わせた全額が約75,000円です。
ただし年金保険料が高くなる分、将来受け取れる年金に上乗せされますので、将来を考えたときには損になることはありません。
一人会社でも、法人として企業活動する場合は、健康保険や厚生年金に加入する義務が生じます。
保険料が高くなるからと加入せずにいた場合、年金事務所の調査で未加入が発覚すると最大2年までさかのぼり保険料の納付を求められ、さらに罰則が適用される場合があります。
一人会社は個人事業主と異なり、会社として仕事をし、報酬を得ます。
個人事業主から会社を立ち上げるのは、手間も費用もかかりますが、節税・融資・求人などで大きなメリットが得られます。
一人会社になると社会保険に加入する義務もあり、個人事業主だったころに比べると保険料が高くなりますが「将来受け取れる年金額が多くなる」「扶養者が複数人いる場合には保険料負担が下がることもある」などのメリットも。
個人事業主として活動されている方も、メリットを踏まえて、一人会社への変更を検討されてみてはいかがでしょうか。