2020/8/11
会社を後継者に継いでほしいと考えているとき、会社分割や事業譲渡などを検討することになるでしょう。
どちらも事業を引き継ぐ手法ではありますが、意外と違いがあることをご存じですか?
この記事では、会社分割と事業譲渡の違いを分かりやすく解説し、メリット・デメリットを比較していきます。
会社分割と事業譲渡はどちらもM&Aの手法の一つです。
M&Aというのは、Mergers and Acquisitionsを略した言葉で、企業の合併と買収を意味しています。
しかしながら、双方には明確な違いがあります。
会社分割 | 事業譲渡 | |
会社法での扱い | 組織再編行為に該当 | 取引法上の契約 |
債権者への対応 | 債権者保護手続きが必要 | 個別の事前承諾が必要 |
従業員との雇用関係 | 包括継承 | 個別同意が必要 |
許認可 | 一部継承できるもの有り | 再取得が必要 |
消費税 | 非課税 | 課税資産の合計額に課税 |
不動産取得税 | 一部のケースを除き課税 | 課税 |
登録免許税(軽減措置) | 受けられる | 受けられない |
まず、会社分割とは、事業資産を含め、会社の事業を新会社あるいは既存の会社へ包括的に承継させることを言います。
企業のグループ内の編成手法として用いられることが多いです。
会社法における組織再編行為に該当するため、債権者保護手続きが必要です。
債権者保護手続きは債権者の利益を保護する目的で、組織再編行為を行う旨を事前に通知し、異議申し立ての受付期間を設ける手続きです。
その反面、債権者から個別に事前承諾を得る必要はありません。
また、従業員と個別の再契約は不要ですが、労働者保護手続きを行わなければなりません。
例えば、労働者との協議、労働組合への通知、労働者による異議の申し出対応などです。
※厚生労働省より
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000135994.pdf
対する事業譲渡とは、事業資産を個別に選択して他社に売買することを言います。
売り手側の目的としては、ノンコア事業の分離、事業縮小(会社のスリム化)、資金の獲得など。
買い手側の目的としては、新規事業の獲得、事業規模の拡大、人材や技術の獲得などが挙げられます。
組織再編行為に該当しないため、債権者保護手続きは不要ですが、債務を継承させるには債権者から個別に事前承諾を得る必要があります。
また、従業員と個別に再契約をしなければなりません。
会社分割では一部許認可を継承できるものもありますが、事業譲渡においては、原則的にすべて再取得が必要です。
会社分割と事業譲渡、それぞれのメリット・デメリットを比較していきましょう。
1. 買収資金が不要
事業譲渡では事業の買収に現金が必要ですが、会社分割では株式を対価にすることができるため、資金を用意する必要がありません。
2. 消費税が基本的に非課税
事業譲渡では売り手・買い手の両者に消費税が課せられますが、会社分割では消費税が非課税になります。
さらに、条件を満たせば登録免許税や不動産取得税において軽減措置が受けられるのも買い手にとって大きなメリットと言えるでしょう。
3.手続きが簡単で手間が少ない
事業譲渡では債権者から個別に同意を得る必要があり、また資産移転の名義変更を行うなど手続きが複雑です。
しかし、会社分割では契約関係を含めて包括的に承継されるため、個別同意は必要なく、手続きが少ないというメリットがあります。
1. 簿外債務などの負債を引き継ぐ
会社分割は包括的に事業を引き継ぐ手法ですので、必然的に未払い給与や売掛金などを引き継ぐ可能性があります。
買い手にとっては大きなリスクとなることがあるでしょう。
2.税務に関する知識が必要
不動産所得税は一定の条件を満たさなければ非課税になりません。
主に金銭の不交付や資産・従業員の引継ぎ、事業の継承の4つで可否が決定されるため、税務に関する知識がないと条件を満たしているかの判断が難しいです。
1. 簿外債務などの負債を引き継がない
会社分割では負債を引き継ぐリスクがある一方、事業譲渡は対象の資産を個別に選択することが可能なため、簿外債務を引き継ぐ必要がありません。
2. 譲渡資金が得られる
会社分割では対価として株式を受け取りますが、事業譲渡では現金を受け取ることができます。
株式は現金化に時間を要する、あるいは現金化できないケースもあります。
現金が得られることは、取得した資金をコア事業や新規事業に投資することができるという点で売り手にとっての大きなメリットになります。
3. 後継者問題が解決できる
少子高齢化や人口の減少などが進む中、後継者不在の問題を抱えている中小企業の経営者は非常に多いと言います。
事業譲渡は会社の事業を第三者に承継する手法ですから、「事業を継ぐ子どもがいない」「社内継がせられる人材がいない」など後継者不在の問題を解決するのにふさわしい選択肢となるでしょう。
1. 買収資金が必要
買収の際、会社分割では株式を対価にできますが、事業譲渡では現金を支払わなければなりません。
貯蓄が少ない場合、金融機関などから借り入れが必要となり、債務を抱えることになるのがデメリットです。
2. 消費税が課税される
事業譲渡は個別の承継になるため、各資産に消費税が課せられます。
土地以外の有形固定資産、無形固定資産、棚卸資産、のれん(将来的な利益、付加価値など)が対象となり、軽減措置などがありません。
3.手続きに時間と手間がかかる
契約関係や名義変更などを買い手側が行う必要があるため、手続きに時間と手間がかかるのが事業譲渡のデメリットです。
個別同意や許認可の再取得も必要です。
4.20年間同一事業が立ち上げできない
譲渡日から20年間、同一区域および隣接区域で同一の事業を立ち上げることが会社法で禁じられています。場合によっては期間が延長されることもあります。
ただし、双方の合意があれば制約が解除されることもあります。
会社分割と事業譲渡、混同しがちですが、実際に比較してみると全く異なる手法であることが理解していただけましたか?
どちらを選択すればよりよい結果に結び付けられるのかは、法的知識や経験がなければ判断が難しいところです。弁護士に相談して適切なサポートを受けるのが望ましいでしょう。