2020/6/15
会社分割と事業譲渡は、どちらも会社の事業を引き継ぐための手法です。しかしながら、会社分割と事業譲渡は似て異なるもので、いくつか違いが挙げられます。
ここでは、会社分割と事業譲渡の特徴や手続きにおける違いを説明していきます。
事業を後継者に引き継ぎたいとき、会社分割と事業譲渡のどちらを選ぶのが適切なのでしょうか。
まずは会社分割と事業譲渡、それぞれの手法について詳しくみていきましょう。
会社分割とは、会社を事業ごとに分割し、その権利義務を一部、またはすべて別の会社に承継させる手法のことです。
会社分割には2種類の方法があります。一つは、既存の会社へ事業を引き継ぐ「吸収分割」です。
もう一つは新たに設立した会社に事業を引き継ぐ「新設分割」です。
グループ内再編の手法として用いられることが多く、会社のイメージダウンが少ないこと、一部の事業を移転できることなどのメリットがあります。
事業譲渡とは、会社の事業・資産・負債を一部またはすべて別の会社に売却(譲渡)する手法のことです。
企業の合併と買収の総称である「M&A」の手法の一つに該当します。
事業譲渡では有形財産だけでなく、営業ノウハウや取引先との関係、社員の雇用契約など無形財産の継承も行われるのが特徴的です。多角経営の会社が規模を縮小できる、あるいはコア事業に集中できるというメリットをもちます。その一方、事業規模に比例してデメリットも大きくなることから、中小企業の売買において用いられることが多いです。
会社分割と事業譲渡は異なる手法であることから、手続きの方法にも違いが挙げられます。
下記表で比較しながら、確認してみましょう。
会社分割 | 事業譲渡 | |
会社法の組織再編行為 | 該当する | 該当しない |
契約・承継の仕方 | 包括承継 | 個別承継 |
債権者保護 | 原則的に債権者保護 | 個別同意 |
簿外債務の引継ぎリスク | 有り | 原則的になし |
許認可 | 自動的に承継 | 再取得が必要 |
従業員 | 包括承継(労働者保護手続きが必要) | 個別同意 |
税務 | 消費税・不動産所得税は非課税(要件有り)、軽減措置OK | 消費税・不動産所得税は課税、軽減措置NG |
細かい項目で比較してみると、その違いの多さは一目瞭然です。
これらの項目について、一つずつ順を追ってご説明していきます。
会社分割と事業譲渡の違いの原点ともいえるのが、会社法上の取り扱いです。会社分割は会社法における組織再編行為に該当しますが、事業譲渡は該当しません。法的な扱いが違うため、さまざまな面で相違が発生してきます。
会社分割では、分割する事業の権利や義務が一括して承継されることから、分割内容を個別に契約する必要はありません。一方、事業譲渡では事業資産が個別に承継されるため、各種契約相手の同意を得る必要があるのです。例えば、債権の承継には債権譲渡の手続きが、債務の承継には債権者の承諾を要します。
会社分割では事業資産を包括的に承継するため、債務も引き継がれます。資本金の減少や負債額の増加など、債権者へのデメリットを軽減するための「債権者保護手続き」が必要となります。
債権者保護手続きには、官報公告と個別告知の2つの手続きが含まれます。官報公告は、債権者や取引先に対して、会社分割を行う事実を行政の機関紙などで公的に知らせることです。
個別告知は、会社分割にあたり債務者が変更する債権者に対し、催告する手続きです。債権者保護手続きには最低でも1ヵ月程度かかります。
簿外債務というのは、帳簿に載っていない債務のことです。事業譲渡では債務を引き継がないため、買い手側に簿外債務の引継ぎリスクはありません。
一方、会社分割は包括承継という形式上、簿外債務の引継ぎリスクが発生します。平たくいえば、決算書に載らない借金(簿外負債)を肩代わりしなければならないということです。
認許可というのは、特定の事業を行うために行政機関から取得しなければならない許可のことです。
例えば、理容業(届出)、旅行代理店(登録)、警備業(認可)、リサイクルショップ(許可)、不動産業(免許)などが挙げられます。
会社分割では自動的に承継されるため再取得は必要ありませんが、事業譲渡では許認可が承継されないため取得手続きが必要です。
会社分割では従業員に対し、労働契約承継法に基づいた手続き「労働者保護手続き」を行う必要があります。
具体的には以下のような手続きです。
・労働者との協議
・労働者への事前通知
・労働者の異議申立対応
事業譲渡では従業員に対し、個別の同意が必要です。
従業員の意向を把握した上で、雇用調整や退職金などの手当てについて検討していかなければなりません。
会社分割と事業譲渡では、税務上の違いもいくつかあります。会社分割は組織再編行為に該当するため消費税の課税対象外です。
また、本来であれば土地や建物の引継ぎでは不動産取得税の支払い義務がありますが、一定の要件を満たせば軽減措置が受けられます。
登記の際の登録免許税も同様です。
一方、事業譲渡は資産の売買とみなされ、消費税が課せられます。課税対象となるのは以下の4つです。
・土地を除く有形固定資産(建物、工具、器具、備品など)
・無形固定資産(特許権、商標権、施設権利など)
・棚卸資産(在庫)
・のれん(営業権)
さらに、事業譲渡では不動産取得税や登録免許税に対する軽減措置は受けられません。
不動産取得税は土地や建物の評価額に、登録免許税は資本金額に比例して高くなります。
規模の大きい会社はそれらの点にも十分に留意して会社分割と事業譲渡、どちらの手法を選択するかを決めていく必要があるでしょう。